2025年のカスタマーサクセス組織はどう変わるのか~守りのカスタマーサクセスから攻めのカスタマーセールスへ~
いま、SaaSビジネスを取り巻く環境が大きく変わっています。
これまでは新規顧客の獲得が最優先でしたが、最近では既存顧客の満足度を高め、さらに追加の売上を得る仕組みづくりが重要視されています。
そこで、従来のカスタマーサクセスが大きく見直されています。これまでは『解約を防ぐ活動』がメインでしたが、近年は本格的に『売上に直結する活動』へと舵を切る組織が増えています。
本コラムでは、現在トレンドとなっているCS組織の変化を、一緒に見ていきましょう。
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目次[非表示]
- 1.2025年のカスタマーサクセス組織はどう変わるのか
- 2.市場環境の変化とSaaS事業トレンド~なぜ“守り→攻め”への転換が求められるのか~
- 2.1.これまでのSaaSビジネスのKPI
- 2.2.2024年以降の転換点:既存顧客重視へ
- 2.2.1.理由1. 資金調達の厳格化
- 2.2.2.理由2. 新規獲得コスト(CAC)の上昇
- 3.カスタマーサクセス(守り)とカスタマーセールス(攻め)の対比 ~ビフォーアフターでわかる、CS組織の変化~
- 3.1.守りのカスタマーサクセス
- 3.2.攻めのカスタマーセールス(アフター)
- 3.3.両者の比較
- 4.組織が変化すべきポイント ~守りと攻めを両立するために必要なこと~
- 4.1.目標数値や評価指標(KGI・KPI)の変更
- 4.2.人材要件の見直し
- 4.3.採用・育成のポイント
- 5.まとめ
2025年のカスタマーサクセス組織はどう変わるのか
守りのカスタマーサクセスから攻めのカスタマーセールスへ
カスタマーサクセス組織は「守りのCS」だけでなく、「攻めのCS=カスタマーセールス」へと役割が大きく変わってきています。
理由は、既存顧客からのアップセルやクロスセルを実現しないと、SaaSビジネスの継続的な成長が難しくなるからです。
特にここ数年で、新規獲得コスト(CAC)の高騰や競合SaaSの乱立などにより、顧客を獲得し続けるだけでは事業拡大が追いつかない状況が予想されます。こうした変化のなかで、CSが「守り」と「攻め」を両立しなければ、収益面で取り残されるリスクが高まるのです。
では、「守りのCS」とは何かを簡単に整理します。これは、解約率(チャーンレート)を下げるために、オンボーディングを含め、顧客が製品やサービスを正しく使えるようサポートし、解約を防ぐための活動を指します。顧客の疑問や不満をいち早くキャッチして、解約を防ぎ、満足度を高める。これはCSにとって重要な役割です。
一方で、『攻めのCS』は顧客の利用状況や展望を深く理解したうえで、追加導入(アップセル)や別商材(クロスセル)を提案します。
たとえば「上位プランにアップグレードすると、データ解析のレポート頻度が2倍になります。意思決定が早くなるので業務効率が向上しませんか?」のように、実際に得られる効果(ROI)を明確に示すことが重要です。
結論として、2025年のCS組織は「守りのCS」を維持しつつ、「攻めのCS」として売上創出にコミットする形へ変貌せざるを得ないということです。
この背景には、SaaS企業が収益の最大化を目指すうえで既存顧客への深耕が不可欠である、という現実があります。
別の背景 SaaS資金調達・新規獲得の難化
なぜ、CSが攻めの機能を担う必要が急速に高まっているのでしょうか。
それは、SaaS市場における投資家の目線が厳しくなり、新規顧客優先の成長モデルだけでは評価が得にくくなっているからです。
上述した「継続的な成長」と関連する部分はありますが、理由は大きく2つあります。
1つ目は、新規獲得コスト(CAC)の上昇です。広告費用やマーケティング費用がかさむ一方で、競合サービスが続々と参入してくるため、限られた予算で大きくユーザー数を伸ばすのが難しくなってきました。
2つ目は、投資家が早期黒字化を求める傾向が強まったことです。
以前は「とにかくユーザー数を集めて市場シェアを取れ」という方針で投資していたVCも、最近では「どのタイミングで黒字になるのか」「ARRやMRRはどのくらい積み上がるのか」を重視するようになっています。
その結果、導入社数を増やし続けるだけではなく、既存顧客からの売上を積み上げていく戦略が求められ、CSが売上面でも成果を求められる流れになりました。
このように、競合環境や市場フェーズ、投資家の目線など様々な市場環境の変化によって、良くも悪くも組織が変わることを求められています。逆に、「守りのCS」と「攻めのCS」を両立できる体制を素早く作った企業は、顧客満足度を維持しながら売上アップを実現しやすくなります。
特に2025年以降、SaaS企業として生き残るには『いかに効率的に既存顧客からの収益を伸ばすか』がカギになります。ここを実行できるCS組織があるかどうかが、会社の競争力を大きく左右するでしょう。
市場環境の変化とSaaS事業トレンド~なぜ“守り→攻め”への転換が求められるのか~
これまでのSaaSビジネスのKPI
これまでは、SaaS企業が「とにかく導入社数(新規顧客)を増やすこと」を最優先に考える時代でした。理由としては、投資家やベンチャーキャピタル(VC)がトップライン(ARR/MRR)の拡大を重視していたからです。
導入社数が急増すれば、いずれその顧客群へのアップセル・クロスセルで黒字化できるだろう、という期待がありました。さらに、利用企業数が増えるほど市場シェアを拡大でき、認知度向上やブランディング効果も得やすくなります。
そのため、多くのSaaS企業では広告や営業に惜しみなく投資し、赤字を出してでもユーザーを獲得し続けるケースが見受けられました。一方で、カスタマーサクセス(CS)は「解約率を抑えるサポート部隊」という守りの立ち位置が大半で、直接売上にコミットする意識はまだ低かったのが実情です。
2024年以降の転換点:既存顧客重視へ
結論として、2024年以降は「既存顧客をどれだけ深耕できるか」がSaaS企業の成長を左右します。
以下で、その主な理由を2つに分けて解説します。
理由1. 資金調達の厳格化
まずは、投資家の目線が厳しくなったことです。具体的には、資金調達のハードルが厳しくなり、早期黒字化を求められるようになったことです。
これまでは赤字前提で新規獲得に走っても、投資家やベンチャーキャピタル(VC)からの資金が比較的得やすく、「とにかくユーザーを増やせば、あとで収益化できる」という空気がありました。
また、導入社数が増えるほど「市場シェアを取った」という評価もされやすく、SaaS企業にとってPR効果やブランディング効果も大きい面がありました。広告費用を積極的に投下し、営業部隊を増強して、とにかく多くの企業に導入してもらう方針を取る会社が少なくなかったのです。
それが「とにかくユーザー数が増えればOK」と見ていた時代が終わりつつあります。最近は、投資家が「いつ黒字になるか」「ARR(年間経常収益)がどのくらい増えそうか」を厳しくチェックするようになりました。
その背景には、近年の金利上昇や株式市場の変動によってリスクマネーが絞られるなか、投資家は「早期の黒字化」や「早期のキャッシュフロー改善」をこれまで以上に重視しています。
その結果、今はいかに効率よくARR(年間経常収益)を積み上げるかが問われるようになりました。
そのため、単に新規顧客を増やす戦略ではなく、既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を高め、早期黒字化を目指す判断が求められるのです。
理由2. 新規獲得コスト(CAC)の上昇
2つ目は、新規顧客を獲得する難易度が上がっていることです。
背景として、初期のアーリーアダプター層や顕在層はすでに何かしらのSaaSを導入済みであるケースが多く、まったくの未導入企業が減少している点が挙げられます。
また、同ジャンルのSaaSが乱立していて、価格や機能面での差別化が難しくなっています。顧客にとっては「他社から乗り換えするほどの決定的なメリットが見えない」と感じるケースも増え、広告費や営業活動にかける費用が以前より高止まりする状況です。
結果として、新規顧客を取り合うために必要なマーケティング投資やセールスコスト(CAC)が高騰しているため、導入社数の拡大だけでは採算をとりづらくなっています。
このような市場フェーズの変化、投資家/出資者の目線からも、CS組織に求められる役割が大きく変わります。
これまでは「解約されないようフォローする」ことが主な仕事でしたが、いまは「解約を防ぐだけでなく、アップセルやクロスセルによる売上アップ」に直接コミットすることが期待されます。
CSが攻めの姿勢を取らなければ、既存顧客を拡大するチャンスを逃してしまい、投資家が求める早期黒字化やARR拡大を実現できません。
結果として、「守り(顧客フォロー)」と「攻め(売上拡大)」を両立できるCSこそが、今後のSaaS企業を支える柱になるわけです。
カスタマーサクセス(守り)とカスタマーセールス(攻め)の対比 ~ビフォーアフターでわかる、CS組織の変化~
守りのカスタマーサクセス
まずは、これまでの「守りのCS」がどのような業務を担ってきたのかを整理します。
守りのCSのミッションは「チャーン防止」。つまり、最大ミッション≒KGIは「チャーンレート=顧客に解約されないための活動」です。
釈迦に説法で恐縮ですが、SaaSのビジネスモデルでは、解約が増えると売上(MRR/ARR)に直接ダメージがあります。
新規獲得に力を入れても、既存ユーザーがどんどん離脱しては、継続収益が積みあがっていきません。そこで、顧客満足度を上げるための活動を担当する「カスタマーサクセス部門」が誕生し、多くの企業がCSを組織化してきました。
たとえば、オンボーディング支援では、導入初期に顧客がサービスをスムーズに立ち上げられるように、実際に操作方法をレクチャーします。問い合わせが来たら、カスタマーサポートのように問題を解決し、トラブルを最小限に抑える。
また、契約更新のタイミング前に顧客にヒアリングをして、使い勝手や成果を確認することも大切です。ここで顧客が感じている不安や不満を取り除ければ、チャーンリスクを大きく下げることができます。
守りのCSが担う業務は大切ですが、「解約を防ぐ=売上の下振れを避ける」という消極的なイメージもありました。そのため、多くの企業では「人件費がかかるが直接売上を生まない部署」として、コストセンター扱いされることが多かったのです。
実際、「CS部門にどれだけお金を投じても、直接利益にはつながらない」という考え方が根強く、CSメンバー自体も大きな予算を与えられずに活動しているケースがありました。
攻めのカスタマーセールス(アフター)
次に、「攻めのCS」がどのように守りのCSと違うのかを解説します。
攻めのCSのミッションは「売上拡大」つまり、「既存顧客の売上を伸ばすこと」です。
繰り返しになりますが、SaaS企業が成長するうえで、既存顧客の追加導入(アップセル・クロスセル)によるMRR/ARR増のポテンシャルや重要性が高まってきたからです。
具体的には、以下のような活動が想定されます。
-
攻めるための利用データ分析
セールスと言ってもむやみやたらに営業すると、逆に顧客関係を悪化させ、解約に繋がってしまう恐れもあります。そこで、顧客の利用状況や利用機能などを分析して、「このプランや機能を使えばさらに業務効率が上がる」といった根拠を用意する必要があります。
-
コンサルティング的なアプローチ
上記と合わせて、当初の導入目的と顧客の事業課題を深堀りし、「この機能を追加すると、コスト削減や売上増につながります」という客観性のある提案が求められます。
こうしたアクションを、守りのCSと同じ担当が行う場合もあれば、CS部門内に「カスタマーセールス専門チーム」を作る場合もあります。いずれにしても、顧客と普段から密に接しているCSが新たな売上機会を創出できる点は変わりません。
攻めのCSは、既存顧客への提案を通じて新たな売上を生むため、コストセンターではなくプロフィットセンターとして扱われる傾向が強まります。
具体的には、アップセル・クロスセルによる売上目標(ARR/MRR増加率など)をCS部門が直接担ったり、カスタマーセールスの担当者にインセンティブが支払われたりします。
これにより、「CSはサポートだけではない。会社の利益にも大きく貢献している」という認識が社内に広まり、CS部門の存在価値が高まっていきます。
両者の比較
ここで、守りと攻めの違いを表でまとめます。
両方のCSを一気通貫で担う企業もあれば、組織内で役割を分ける企業もありますが、どちらにしても「守り×攻め」を両立する必要性は同じです。
項目 |
守り(カスタマーサクセス) |
攻め(カスタマーサクセス) |
目的/ミッション |
チャーン防止 |
既存顧客の売上拡大 |
業務内容 |
導入サポート |
データ分析 |
評価指標 |
解約率(チャーンレート) |
ARR/MRR増加率 |
組織的扱い |
コストセンター |
プロフィットセンター |
このように、「守りのCS=コストセンター」「攻めのCS=プロフィットセンター」という構図に変わりつつあることがわかります。
ただし、守りと攻めはどちらも欠かせません。解約率が高い状態でアップセルを頑張っても成果は出ませんし、アップセルをまったくしなければ成長速度が鈍化します。
結果として、今後は「守りと攻めの両立」がカスタマーサクセス組織の重要テーマになるのです。
組織が変化すべきポイント ~守りと攻めを両立するために必要なこと~
このように、ミッションや実際の活動内容が変わるため、変わっていくためには組織としてその体制をしっかりと作っていく必要があります。
大きくは以下の2つです。
- 目標数値や評価指標(KGI・KPI)の変更
- 人材要件の見直し
目標数値や評価指標(KGI・KPI)の変更
当たり前ですが、活動を変えるには、個人・チームとして指標となるKGI・KPIを変える必要があります。チーム全体が攻めの姿勢を意識できる環境を作ることが重要です。
従来のCSは、チャーン率やNPS(顧客満足度)などを指標として捉える“守り”の側面が強い組織でした。しかし、守りだけを評価していては、売上拡大に向けた意識が育ちにくいのも事実です。
たとえば、以下のような指標を用いることで、CS部門が「攻めの成果」を出しやすくなります。
-
ARR/MRRの伸び率
既存顧客の追加導入(アップセル・クロスセル)による増収額を毎月または毎年で追う -
アップセル率・クロスセル率
全顧客のうち、何%が新たな契約プランや関連サービスを導入したか -
新規獲得顧客のLTV(顧客生涯価値)
導入初期からCSが伴走し、単価や契約期間を継続的に引き上げられたかどうか
こうした指標をKGI(最終的なゴール)やKPI(途中経過の測定値)として取り入れると、CSメンバーは解約防止だけでなく、積極的に顧客へ提案して売上アップに貢献しようと行動しやすくなります。
人材要件の見直し
次に、人材面での変化です。
結論として、守りに強い人材だけでなく、営業やコンサルスキルを備えた“攻めの人材”を確保・育成することが求められます。
-
守りのCSに必要なスキル
顧客対応力: 問い合わせ・サポート対応、オンボーディング支援
課題検知力: カスタマーヘルススコアを用い、解約リスクを早めにキャッチ
コミュニケーション能力: 顧客の不安や要望をヒアリングし、満足度を高める -
攻めのCSに必要なスキル
営業・提案力: アップセル・クロスセルの具体的なオファーを行い、顧客に投資を検討してもらう
コンサルティング思考: 顧客のビジネス課題を深掘りし、「上位プランの導入でこの問題が解消できます」などの解決策を提示
データ分析力: 利用ログや業界動向を踏まえ、最適なタイミングで追加提案を行うための根拠を準備
採用・育成のポイント
このような「守り×攻め」の両方のスキルセットを持った人材は、市場でも争奪戦になっています。そこで、以下のような方策が考えられます。
-
育成プログラムの策定
もともとCS部門にいるメンバーに、営業やコンサルティングのノウハウを学んでもらう。組織に新しく来る人への研修などを用意する。 -
他部門とのローテーション
セールス部門で実績を上げた社員をCSに配置し、顧客対応の経験を積ませる。あるいは、CS経験者が営業に移り、顧客目線のセールスを学ぶ。 -
外部人材の活用
模範となる動きや人物が社内で創出が難しい場合は、専門的な知識を持った外部人材にコンサルティングや代行を依頼する。
このように、個人任せにするのではなく、組織として人や予算の投資をして体制を作っていくことが成功への近道です。
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まとめ
ここまでお読みいただきありがとうございます。
「CS組織は、本気で売上を伸ばせる部門になり得る」
CSが攻めと守りを両立させることは、企業にとって理にかなった選択肢です。いまこのタイミングで組織を変革し、社員の意識を刷新できた企業が、2025年以降のSaaS市場で存在感を示すはずです。
本記事が、何かのお力になれれば嬉しく思います。
<著者:木下昌洋>