なぜ完璧な「利益シミュレーション」でも棚は取れないのか?営業部長が知るべきバイヤーの本音
提案の品質は申し分ないはずなのに、なぜか採用に至らない。こうした時、つい「商品力」や「提案の完成度」が原因だと考えがちですが、実際は別のところにあります。
突き詰めると、バイヤー側の意思決定プロセスと、こちらが提示している情報の順序が噛み合っていないのです。
本記事では、P&Gジャパンや日本マクドナルドで営業本部長などを歴任した宮下氏と、大手スーパー「マルエツ」で長年バイヤーを務めた今野氏の対談内容をもとに「消費者が買いたくなる提案の方法」を解説します。
あわせてお読みください
本記事とあわせて、ぜひセミナーレポートもご覧ください。元マルエツの今野氏と元P&Gの宮下氏が、単なる単品提案や価格交渉から脱却し、消費者起点で社内稟議や店舗現場を動かす「会社営業」の実践法を提言します。
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利益シミュレーションが刺さらない時に起きていること
利益シミュレーションは重要です。一方で、バイヤー側にとっては必要条件に留まり、意思決定の決定打になりにくい場面があります。
なぜかと言うと、バイヤーは採用を判断する立場であると同時に、「社内で採用理由を説明し、承認を取り、現場実行へつなげる立場」でもあるからです。
営業側が利益の根拠を丁寧に積み上げても、相手の手元では次の論点が残ることがあります。
- なぜ消費者はその商品を買うのか
- どの売り場で、どのように売るのか
- その内容を社内でどう説明すればよいのか
- 店舗が実行できる形になっているか
これらが埋まらないまま利益の説明だけが厚くなると、「資料は整っているが、社内で通しにくい」という状態になりやすくなります。
現場で一つだけ変えるなら、情報の順序です。利益の前に、採用理由を先に置くことをおすすめします。
バイヤーが求めるのは「顧客が買いたくなる理由」である
アンケート回答を通して、バイヤー側が重視する商談スキルとして挙がったのが「消費者が買いたくなる理由の的確な説明」でした。
調査によると、商談成功のポイントとして、営業側の28.4%が「具体的な売上・利益シミュレーションを提示すること」を挙げました。しかしバイヤー側は、「消費者が『買いたくなる理由』を的確に説明している」ことを最も優れていると感じており、その割合は32.1%に上ります。ここに大きな認識のギャップが存在しています。
営業側は売上・利益の妥当性を丁寧に示すほど説得力が増すと考えやすいのですが、バイヤー側はそれだけでは稟議を前に進めにくいことがあります。
バイヤーが社内で通したいのは、次のような説明です。
- 消費者の状況を踏まえ、この商品を採用する合理性がある
- その合理性を担保できる形で、売り場での実行イメージも描ける
この前提に立つと、営業が最初に提示すべきは利益ではなく、消費者起点の採用理由になります。
バイヤーが喜ぶ提案の型と資料の型
提案の型①:採用理由を一文で提示する
宮下氏の言葉:消費者は誰ですか。どういう価値観で、どういう生活シーンでこの商品と接していますか。
引用:イベント/2,000名調査で判明した、バイヤーの「ぶっちゃけ」を公開
日用品カテゴリーの提案は、競合比較、棚・販促案、価格、粗利、回転、配荷条件など、扱う要素が増えやすい領域です。
そのため、提案の冒頭で「採用理由」を一文で定義しておくと、相手の理解負荷を下げ、以降の情報が通りやすくなります。
採用理由の書き方は、型にできます。
「この商品は、◯◯な消費者が、◯◯の場面で感じている◯◯というニーズを、◯◯という特長で解決できるため、店頭で購入理由を作りやすいと考えています。」
ここで重視したいのは、完璧な分析よりも、バイヤーが社内説明の骨格として流用できる明快さです。
提案の型②:売り場実現を「時間帯×売り方」で示す
今野氏の言葉:競合店舗の情報で気になるのは、売価よりも、3時の時点でどこにどれぐらい陳列してたという情報の方が大事なんです。
引用:イベント/2,000名調査で判明した、バイヤーの「ぶっちゃけ」を公開
バイヤーが重視しているのは、売価以上に「どの時間帯に、どの…」といった売り場の具体的な提案です。
日用品は比較可能性が高い分、価格や条件の議論に寄りやすいのですが、提案の差別化は「売り方の設計」に出やすい領域です。
最低限、次の要素を短く押さえると、相手の意思決定が進みやすくなります。
- どこに置くか
- どう見せるか
- いつ厚くするか
- 何とセットで動かすか
長文で説明する必要はありません。売り場で何が起きるかを、数行で想像できる状態を作ることが目的です。
資料の型:社内提出できる「1枚要約」を先に渡す
宮下氏の言葉:バイヤーがコピペをするだけで稟議書に使えるようなフォーマットで提案すること。それが重要です
引用:イベント/2,000名調査で判明した、バイヤーの「ぶっちゃけ」を公開
対談では、バイヤーが自社フォーマットに整えてから上申することが多い、という実態にも触れられていました。
実際の調査でも、提案資料を修正する際に行うこととして
「自社のフォーマットに合うように体裁を整える(36.1%)」
「要点を絞り、より簡潔にする(32.2%)」
が上位を占めています。
この点は営業側から見えにくいのですが、バイヤーの手元で編集コストが発生している以上、「分厚い資料=親切」とは限りません。
そこでおすすめしたいのが、1枚のエグゼクティブサマリーです。構成を固定すれば、現場でも再現できます。
- 採用理由(消費者が買う理由)
- 売り場実現(どこで、どう売るか)
- 数字(要点のみ)
- 懸念と手当(下振れ要因と対策)
- 次アクション(相手側の意思決定事項)
この1枚を先に渡すことで、バイヤーが社内に持ち込みやすくなり、以降の詳細資料が活きやすくなります。
意思決定を点で捉えず、面で捉える

採用はゴールではありません。採用後に売り場で崩れると、次回の継続が難しくなります。
対談では、意思決定を「決める人」「影響する人」「実現する人」の3者で捉える視点が示されました。
現場としては、全てを把握し切る必要はありません。ただ、次の問いを持っておくと、提案の精度が上がります。
- 最終的に誰が決裁するのか
- 誰の懸念がストッパーになりやすいのか
- 現場実現の責任は誰にあり、障壁は何か
さらに、この「面で捉える」アプローチはメーカー側の社内にも求められます。
実態として、小売側から「単品の商品営業ではなく、あなたの会社は何ができるのかという『会社営業』をしてほしい」と求められるケースが増えています。
社内を動かし、マーケティング部などの知恵を借りてチームとして提案できる営業パーソンが頼りにされるのです。
営業が1人で孤軍奮闘するのではなく、他部署のリソースを巻き込み、組織として小売の課題に向き合える体制を作ること。これこそが、営業部門を率いるリーダーの重要なミッションになります。
まとめ:利益を削るのではなく、提案の順序を整える
利益シミュレーションは、提案に欠かせない大切な材料です。
ただ、それだけではバイヤーの意思決定を動かしきれないことがあります。
大切なのは、数字の前に「なぜ消費者が買いたくなるのか」を伝えること。
そして、売り場でどう実現できるのかまで描くことです。
提案の順序を少し変えるだけで、バイヤーにとって社内に通しやすく、売り場で動かしやすい提案に変わっていきます。
利益の根拠だけでなく、消費者が手に取る理由まで描けているか。次の提案からぜひ意識してみてください。
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