完璧な提案なのに、なぜ棚を任せてもらえない?第一想起を獲得する信頼構築の4ステップ

時間をかけて作成した利益シミュレーションが採用に至らず、「カテゴリーキャプテンは決まっていつもあのメーカー。」これは多くの小売営業が直面する課題かと思います。

実はその原因は、提案内容の精度ではなく、「バイヤーの意思決定プロセス」と「営業側のアプローチ」の間に生じている決定的なズレにあるのです。

2026年6月に開催されたセミナー『リテールNEXT2026』では、弊社リテールセールス エバンジェリストである大矢が登壇。『AIでは成しえない「第一想起」を生み出す営業メソッド』と題し、AIによる自動発注や効率化が加速する今、あえて「人」が営業活動を行う意味や、バイヤーのリアルな本音を明らかにしました。

本記事では、2,000名規模のアンケートデータから見えたバイヤーの意思決定基準を紐解き、選ばれ続けるための絶対条件である「第一想起」を獲得する4つの実践ステップを、弊社の実際の支援事例を交えて詳しく解説します。


あわせてお読みください

本記事と合わせて、2,000名調査で判明した、バイヤーの「ぶっちゃけ」のセミナーレポートもご覧ください。メーカーとバイヤー各1000名への調査で判明した「3つの認識ギャップ」を徹底解説。元マルエツの今野氏と元P&Gの宮下氏が、単なる単品提案や価格交渉から脱却し、消費者起点で社内稟議や店舗現場を動かす「会社営業」の実践法を解説しています。ぜひご活用ください。


目次[非表示]

  1. 1.営業とバイヤーの間に存在する「評価基準のズレ」
  2. 2.棚の獲得を左右する「第一想起」の重要性
  3. 3.商談外で「第一想起」を獲得する4つの実践ステップ
    1. 3.1.【STEP 1】多面的な接点創出による接触機会の最大化
    2. 3.2.【STEP 2】個別KPIの把握と「Pullの関係」の構築
    3. 3.3.【STEP 3】卸企業との協働による「不在時の会議」の活用
    4. 3.4.【STEP 4】「売上最大化」と「オペレーション負荷最小化」の両立提案
  4. 4.セレブリックス支援実例:4ステップを活用したカテゴリーキャプテン奪取
    1. 4.1.【STEP 1】接点創出:電話でこまめな日常接点を作る
    2. 4.2.【STEP 2】課題把握:卸経由で真のニーズを掴む
    3. 4.3.【STEP 3】卸との協働:会議体で決裁層へ提案を届ける
    4. 4.4.【STEP 4】課題解決提案:SKU削減で売上を伸ばす棚割を提示
  5. 5.まとめ:AI時代に求められる営業の付加価値

【アンケート調査概要】

株式会社セレブリックスと株式会社IDEATECHが共同で、メーカー営業・バイヤーそれぞれ1,000名(計2,000名)を対象に実施した意識調査です。

営業担当向け調査(1,000名)

バイヤー向け調査(1,000名)

対象

チェーン本部や店舗ビジネスを営むバイヤーに向けて営業活動を行っている方

小売・卸業者において商品の仕入れ・購買業務に携わるバイヤー、商品担当者

時期

2025年10月27日~11月4日

2025年11月5日~11月28日

項目

スクリーニング項目を含む全25問

スクリーニング項目を含む全25問

営業とバイヤーの間に存在する「評価基準のズレ」

バイヤーへの提案が通らない時、私たちはついシミュレーションの数字やロジックの弱さを疑いがちです。しかし、メーカー営業1,000名、バイヤー1,000名(計2,000名)を対象に実施したアンケート調査から、根本的な評価基準のズレが明らかになりました。

【アンケート項目】商談時のスキルとして何を重要視するか?

それぞれの回答:

メーカー営業の認識(図の左)
具体的な売上・利益シミュレーションを提示することです!

バイヤーの本音(図の右)
実は、消費者が買いたくなる理由(ストーリー)を的確に説明しているか、なんです。

もちろん商談時に具体的な利益シミュレーションは重要ですが、類似実績からの推測などは、AIの活用によって代替されやすい領域になりつつあります。そのためバイヤーが提案時において最も重視しているのは、データそのものではなく「なぜ消費者が数ある商品の中からこれを選ぶのか」という生のストーリーをどれだけ伝えてくれるかどうかなのです。

棚の獲得を左右する「第一想起」の重要性

さらに、同アンケートでバイヤーに対して新商品導入のきっかけについても質問を行いました。

【アンケート項目】新商品の導入で最も重要な「きっかけ」となるものは何か?

第1位は『信頼している営業担当者からの提案』であり、全体の約37%を占めました。データや競合情報以上に、「誰からの提案か」という人間同士の信頼関係が重要指標に置かれています。

では、その信頼関係を築くための商談機会は十分に確保できているのでしょうか。

【アンケート項目】バイヤーと営業、それぞれが望ましいと考える商談頻度は?

アンケートによると、現場の営業担当者がバイヤーと公式に商談できる頻度は「月に1回程度」が最多です。一方のバイヤーは「必要な時だけで良い」と考えており、この限られた商談時間だけで絶対的な信頼を勝ち取ることは極めて困難です。

ですが、ここで言う信頼関係とは感情論ではありません。 信頼関係の正体とは、バイヤーが課題に直面した際に真っ先に特定の担当者の顔が浮かぶ「第一想起の密度」を指します。 製品数が多いメジャーメーカーが必ずしも第一想起先になるとは限らず、このポジションを獲得できれば、ニッチ商品のメーカーであっても選ばれることが十分に可能なのです。

商談外で「第一想起」を獲得する4つの実践ステップ

では月1回の商談に依存せず、どのようにしてバイヤーの第一想起は獲得できるのか。具体的な4つのステップを紹介します。

【STEP 1】多面的な接点創出による接触機会の最大化

月1回、数十分の商談という「点」の接触に依存せず、複数のチャネルを掛け合わせてタッチポイントを「面」へと広げます。重要なのは、バイヤー本人への「直接的アプローチ」と、店舗スタッフや卸企業を経由した「間接的アプローチ」を両輪で回すことです。バイヤー本人だけでなく、その周囲からも「いつも来てくれている担当者」として名前が挙がる状態を作ることが、第一想起の土台となります。

【具体例】直接的アプローチ

月1回の商談に加え、バイヤーへの細かな電話連絡(納品日確認や提案の採否確認など)を行う。※卸企業にも直接連絡を行う旨は事前に共有しておく

【具体例】間接的アプローチ

店舗訪問を積極的に行い、店舗スタッフから本部バイヤーへ「よく来てくれている人」として名前を届けてもらう。また卸を経由しての、情報提供も強化。

店舗の裏口を使用して入店。記名欄に名前を書くことで店舗・卸企業・バイヤーの方に名前を見てもらう機会を増やす。

【STEP 2】個別KPIの把握と「Pullの関係」の構築

バイヤーがチェーンや部門ごとに追っているKPIは千差万別です。相手の真のニーズを正確に把握し、最速で応えられる体制を整えることが重要です。
ただし押し売りにならないよう、事前に「情報提供の合意」を取り、最終的にはバイヤーから自発的に相談される「Pullの関係(相談役)」を目指します。

【具体例】情報提供の合意形成トーク

「本日はお時間いただきありがとうございました。次回の商談は◯月とお伺いしておりますが、それまでの間にも、御社の売上向上や現場負荷軽減に繋がるトレンド情報・他チェーン様での成功事例など、有益と判断できるものがあれば、都度メールや短いお電話で共有させていただいてもよろしいでしょうか?」

このように接触の目的を「相手のメリット」に限定して合意を得ることで、"情報源"としてのポジションを確立できます。信頼が積み上がるとバイヤー側から逆に相談が入り、「このカテゴリーなら◯◯さんに相談しよう」という第一想起へと繋がっていきます。なお情報提供にあたっては、バイヤータイプに応じて"刺さる情報"を出し分けることが重要です。

【具体例】バイヤータイプ別の情報の出し分け

客数重視型
併売率やついで買いのデータを最優先で提供
効率重視型
SKU削減と売上向上の両立案(在庫回転率UP)
市場連動型
業界トレンドや最新ニュースを最速で電話共有

【STEP 3】卸企業との協働による「不在時の会議」の活用

メーカー営業がバイヤーの上司(部長陣など決裁者)に直接会える機会は、半期に1回程度と限られています。そこで、小売側と月次で会議を行っている「卸企業」との連携網を築き、自社が不在の場でも"自社の話題"が挙がる状態を作ります。

重要なのは、卸企業を「単なる流通経路」ではなく「小売への提案を共に作るパートナー」として位置づけ、以下の3点を継続することです。

① 協業の土台づくり(事前作戦会議)
  • 月1回、卸企業と定例の作戦会議を実施
  • 「小売側の重点KPIは何か/今どの課題に困っているか」を軸に、卸企業がそのまま会議で使えるレベルの棚割提案・ブランド提案資料を共同制作
② 武器の定期供給
  • 市場トレンド/類似店舗の成功事例/新製品の売上振り返りなどを、卸企業側にこまめに供給
  • 卸企業が小売バイヤーに"話しやすくなる武器"を渡すことで、自社が不在の会議でも自然に自社商品の話題が挙がる状態を作る
③ 間接的接触の最大化
  • 卸企業からも信頼を得ることで、卸企業側の第一想起も獲得
  • 結果として、小売バイヤーが卸企業に相談した際にも自社の名前が挙がる、二重の想起構造ができあがる

【具体例】卸企業への情報提供メール(月次トレンド共有)

件名:【◯月度トレンド共有】◯◯カテゴリーの併売動向と◯◯様向け提案素材のご共有

◯◯様

お世話になっております。◯◯(メーカー名)の◯◯です。

◯月度の◯◯カテゴリー市場動向をまとめましたので、下記の通り共有いたします。

次回の◯◯(小売名)様との取り組み会議でご活用いただけますと幸いです。

■市場トレンド:◯◯カテゴリー全体で前年比◯%伸長/併売率が高いのは◯◯

■類似チェーンでの成功事例:◯◯様にて定番棚◯尺→◯尺への集約でPOS◯%伸長

■ご提案素材:添付の棚割案/販促シミュレーション

事前に方向性をすり合わせさせていただきたく、来週◯日〜◯日で15分ほどお時間頂戴できますでしょうか。

【STEP 4】「売上最大化」と「オペレーション負荷最小化」の両立提案

関係性を構築した上で提示する提案のゴールは、当然ながら小売側の売上向上です。しかし、人手不足が深刻な昨今、バイヤーの真のニーズは「POS売上の最大化」と「現場オペレーション負荷の最小化」の両立にあります。

単品を売り込むのではなく、以下の3つの観点で「小売現場が抱える痛み」を的確に解決する提案が、選ばれる提案の条件となります。

① 在庫回転率の向上
  • キャッシュフローを改善し、バックヤードの滞留在庫を削減
  • 常に「売れる鮮度」を維持する物流・陳列スキームを提示
② 買い上げ点数の増加(客単価UP)
  • 単品売り込みではなく、POSに現れる併売データに基づいた関連陳列を提案
  • カテゴリ全体の底上げに繋がる「ついで買い」動線を設計
③ SKUの最適化
  • 市場データと店舗需要を突き合わせ、死に筋SKUを徹底的に排除
  • バイヤーが迷わず判断できる「売れる棚の濃縮案」として提示

特に③のSKU最適化は、「配荷数を減らす提案」という一見メーカーにとって不利に見える切り口だからこそ、バイヤーから「この人は自社都合ではなく、うちの店舗のことを本気で考えてくれている」という信頼を勝ち取れる決定打になります。

セレブリックス支援実例:4ステップを活用したカテゴリーキャプテン奪取

ここまで解説した4つのステップは、単なる理想論ではありません。実際に弊社セレブリックスが営業支援に入り、これらのステップを戦略的に繋ぎ合わせることで、大手競合から「カテゴリーキャプテン」の座を奪取した日用品メーカー様の成功事例をご紹介します。

■事例サマリー

対象
ドラッグストアチェーン向け日用品メーカー様の営業支援
抱えていた課題
大手競合がカテゴリーキャプテンを担い、棚割の主導権を握られている
得られた成果
カテゴリーキャプテンポジションを奪取。
次期秋冬以降も売場提案のイニシアチブを継続保持

■Before → After(支援による変化)

Before|支援前の課題

After|支援後の成果
  • 競合メーカーがカテゴリーキャプテンを担い、棚割の主導権を握られている
  • 売場拡大のためには「定番棚」を握ることが最重要ミッション
  • バイヤーとの接点は月1回、決裁者(部長・課長級)とは半期に1回のみ
  • 長年主導権を握っていた競合からカテゴリーキャプテン奪取
  • 上層部からバイヤーへ「次回からは御社と担当卸で棚を進めるように」と通達
  • 次期秋冬以降も、売場提案のイニシアチブを継続保持

■実施した4つのアプローチ(STEP 1〜4の連携)

【STEP 1】接点創出:電話でこまめな日常接点を作る

月1回の定例商談だけでは、バイヤーとの信頼構築に必要な接触頻度を確保できません。そこで定例商談は維持しつつ、日常的な電話コミュニケーションを意図的に増やす方針を採りました。ただし用件のない連絡は「押し売り」と受け取られるリスクがあるため、バイヤー側にも自然に受け入れられるフックを組み込むことが重要でした。

POINT|接点のフックは「MD採用や納品日の確認」を活用する

【STEP 2】課題把握:卸経由で真のニーズを掴む

バイヤーへの提案精度を高めるには、まず小売側の真のニーズを掴むことが出発点となります。卸経由での情報収集を重ねた結果、当該小売では総配荷数(SKU×店舗数)など定番棚に紐づくKPIが最重要視されている一方で、「現場のオペレーション負荷(品出し等の手間)をいかに軽減するか」も深刻な裏課題となっていることが判明しました。そこで、これら双方を満たすべく「定番棚の主導権を握ること」を最短ルートの目標として設定しました。ただし関係構築初期のバイヤーに対して直接情報提供を仕掛けるのはハードルが高く、段階的なアプローチ設計が必要でした。

POINT|情報提供は卸経由から開始し、徐々に直接連絡を取れる関係値を構築する

【STEP 3】卸との協働:会議体で決裁層へ提案を届ける

メーカー営業がバイヤーの上司(部長・課長級の決裁者層)に直接会える機会は半期に1回程度と極めて限られています。バイヤーとの個別商談だけに頼っていては決裁層への提案リーチが不足するため、別ルートの構築が不可欠でした。着目したのは、卸・小売本部の決裁者層(部長/課長級)が参加する卸企業主催の月1回「取り組み会議」です。この会議体を、自社不在でも決裁者層へ提案が届く戦略ルートとして位置づけました。

POINT|卸とは事前に方向性をすり合わせ、こまめに連携を取る

【STEP 4】課題解決提案:SKU削減で売上を伸ばす棚割を提示

STEP 2で把握した「定番棚のKPI達成」と「オペレーション効率化」という2つの前提を活かし、小売の真の課題解決に寄与する提案を設計するフェーズです。従来のメーカー営業では「配荷数を増やす提案」が定番でしたが、これでは現場負荷を増やすだけとなりバイヤーの本音とはズレるため、発想の転換が必要でした。結果として、STEP 1~3で築いた信頼関係とこの「現場の痛みに寄り添う提案」が組み合わさり、卸の会議体で部長の承諾を獲得。次期秋冬のカテゴリーキャプテン奪取につながりました。

POINT|配荷数を増やすことに拘らず、「SKU削減でも売上が上がる」設計を提示する

まとめ:AI時代に求められる営業の付加価値

シミュレーション作成などのデータ業務がAIに代替されていくからこそ、「人と人の繋がり」による信頼構築(第一想起の獲得)が最大の差別化要因になります。

これからの営業活動において勝敗を分けるのは、提案資料の完成度を高めることだけでなく、商談外の接点創出や卸との連携といった「関係構築」にどれだけ時間を投資できるかです。

数字の先にあるストーリーを語り、多面的なタッチポイントで泥臭く信頼を築く。この人間にしかできないプロセスこそが、競合から棚を奪う最強の戦略です。次の商談では、バイヤーとの「接点の持ち方」を一つ変えることから、始めてみてください。


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吉田 美和
吉田 美和
【市場開発本部 ブランド・マーケティング統括室 マーケティングプランニングGr】 2022年5月入社。カスタマーサクセス領域における営業支援を3年半にわたり経験。現在はインサイドセールス領域にて、インバウンド対応を兼任しながらコンテンツ制作にも従事している。最前線で収集した「顧客の生の声」を活かし、読者の課題解決に直結するコンテンツづくりを目指している。

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